フジツボ 2
以前に無駄に情熱を注いでフジツボを作った私だが(2018年5月20日のエントリ『フジツボ』を参照)、ひとつ忘れていたことがあった。
フジツボ最大の特徴のひとつ、ペニスの再現だ。
フジツボの成体は固着性で移動できないため、雌雄同体。
これだと「近くにいるのが同性だけで繁殖できない」という事態を避けられる。
そして相手に接近できないため、体長の8倍にも及ぶ動物界で最も長大なペニスを持つ。
左の個体が右の個体にペニスを伸ばしている。
殻の中に精子を送り込むだけなので正確には交尾ではなく「擬似交尾」らしい。
なお、フジツボの仲間のエボシガイにはペニスが届かないくらい遠くにいる個体からでも海水から精子を取り入れて受精できるものがいる様だ。
なお、「フジツボのペニスは体の30倍!」とか書いてあるサイトもあるが、コレは盛り過ぎやろ…。
こういうのはうろ覚え&伝言ゲームの果てに、どんどん水ましされていくものである。
有名な「エスキモーは雪を100種類に呼び分ける」といった類のトリビアも、元を辿ればごく少数だったものが伝言ゲームで増え、最終的には200とか400まで増えた様だ。
逆に「元の数はたった4つ」「いや、数え方によっては2つ」といった説もあるが、これとて数字を過小評価する方向にバイアスが働いた結果なのかもしれない。
そもそもこの文章自体、うろ覚えで書いてるので結構デタラメかも(一応書いておくと元ネタはスティーブン・ピンカー『言語を生み出す本能』とネット情報)
全景。
レゴでフジツボを作る際にキモとなるのが「蔓脚をどう表現するか」。
以前からこの小型の葉っぱパーツを使えないかと考えていたのだが、当初は緑色しかなく、「いかにも植物」感を拭えなかった。
その後、紅葉したオレンジ版が出たので「これなら何とか…」と思い製作(蔓脚が赤っぽいことはままある)。
周殻はコーン型のパーツでも良かったのだが、ちょうど良いサイズや形状・色のものが手に入らなかったのと、どうしても殻口が小さくなるため、自作した。
周囲の生物はあまり目を引きすぎない様にあえて地味めに作っている。
蔓脚を引っ込めた状態。
死んで殻だけが残った状態。
ちなみにフジツボは雌雄同体、つまりオタ用語でいうところの「ふたなり」な訳だが…
フジツボの仲間(蔓脚下綱)にはフクロムシ(根頭上目)というのもいて、その生き様がなかなかに複雑。
「傷口から入ったフジツボが膝のお皿の裏側でびっしり繁殖する」という都市伝説があるが、フクロムシは実際に寄生生活を送る。
甲殻類間の寄生は珍しくないらしく、中には「甲殻類に寄生した甲殻類にさらに寄生する甲殻類」も存在する。
フジツボはエビやカニの仲間とは思えないほど奇妙な形をしているが、フクロムシはさらに不可解なことになっている。
それは宿主の体内いっぱいに広がる、植物の根の様な形なのだ。
これは「節のある脚が生えてる」という甲殻類の基本的な体制から逸脱しすぎている。
なぜこの様な離れ技が可能なのか?
それはケントロゴンと呼ばれるドリルの様な幼生が宿主の体に穴を開けて細胞数個(時には1個)のみを送り込み、そこから成長するからだ。
幼生から直接成長するとなると、いくら変態しようと多少は体制を引きずることになり、影響を受ける。
だがほぼゼロから体を作り直すなら話は別だ。
映画『エイリアン』でも卵(エッグチェンバー)から出てきた幼体(フェイスハガー)と成体(ビッグチャップ)では大きく姿が違うが、それは幼体がそのまま育つのではなく、宿主の喉に「何か」を産みつけ、自分は死んでしまうからだろう。
知らんけど。
さらにフクロムシは宿主の生殖能力を奪う。
フクロムシから見れば、カニが資源を生殖などに振り向けず、生存のみに投資してくれる方がありがたいからだ。
それがオスのカニであれば、腹(俗に「ふんどし」と呼ばれる部分)がメスの様に広くなる。
繁殖期のメスであればそこに卵塊を抱え、こまめに掃除したり新鮮な海水を送り込んだりするのだが…
寄生されたオスのカニは腹部からフクロムシの生殖巣をはみ出させ、熱心に世話するのだ。
メスのカニが自らの卵に行うのと同じく。
オタ的に言うと、女体化させられた男の娘がうっとりと自らのボテ腹を撫でる妊娠エンド。
業が深い…。
「業が深い」で思い出したのだが「獣欲、業を制す」ってどういう意味?
フクロムシの生殖巣をはみ出させたカニは先述の2018年5月20日のエントリ『フジツボ』でレゴで再現しているので参照されたい。